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第26話 帰還を待つ城

Auteur: けもこ
last update Date de publication: 2026-08-05 18:36:26

セオドアは、東の国境要塞にある執務室で、この地域の管理官を務める、ボーグムント=コグウェルから、ここ最近の国境付近の情勢についての報告を受けていた。

「先日捕らえたドラグナの密偵を取り調べたところ、どうやら東の鉱山から物資を略奪するつもりだったようです。鉱山付近に接近していた隣国の兵も、その情報に基づき排除いたしました」

「‥‥まったく、懲りない連中だ。さて、どうしたものか」

和平条約を結んだとはいえ、狩猟民族から成り上がったドラグナは、まだ経済の基盤を築ききれていない。資源がなければ奪えばよい、という発想から脱しきれずにいるのが実情だ。

「皇宮からも、こうした行為に対する遺憾の意を込めた書簡を送っている。しかし向こうは、“侵略は一部の民族によるもので、国家としても手を焼いている”と、逃げ口上ばかりだからな。陛下もご不快のご様子だった」

「いっそ、ドラグナを併呑へいどんしてしまえばよいのでは?」

副官のエンリオが、浅黒い頬の無精ひげを擦りながら、軽口のように呟いた。

「‥‥取ったところで、だ。ここよりさらに寒さの厳しい北の地を領土に加えたところで、管理の手間が増すばかりだろう。
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  • 夢見る白銀の乙女は傲慢な将軍に娶られる   第26話 帰還を待つ城

    セオドアは、東の国境要塞にある執務室で、この地域の管理官を務める、ボーグムント=コグウェルから、ここ最近の国境付近の情勢についての報告を受けていた。「先日捕らえたドラグナの密偵を取り調べたところ、どうやら東の鉱山から物資を略奪するつもりだったようです。鉱山付近に接近していた隣国の兵も、その情報に基づき排除いたしました」「‥‥まったく、懲りない連中だ。さて、どうしたものか」和平条約を結んだとはいえ、狩猟民族から成り上がったドラグナは、まだ経済の基盤を築ききれていない。資源がなければ奪えばよい、という発想から脱しきれずにいるのが実情だ。「皇宮からも、こうした行為に対する遺憾の意を込めた書簡を送っている。しかし向こうは、“侵略は一部の民族によるもので、国家としても手を焼いている”と、逃げ口上ばかりだからな。陛下もご不快のご様子だった」「いっそ、ドラグナを併呑してしまえばよいのでは?」副官のエンリオが、浅黒い頬の無精ひげを擦りながら、軽口のように呟いた。「‥‥取ったところで、だ。ここよりさらに寒さの厳しい北の地を領土に加えたところで、管理の手間が増すばかりだろう。陛下も同じお考えだ。向こうが勝手に崩壊してくれれば良いのだが‥‥しぶとい民族だからな」北の辺境を侵略することで、勢力を拡大してきたドラグナ帝国。その領地は辺境よりさらに北に広がっており、継続的な農耕には適さない土地が多い。狩猟を主な生産手段とする彼らは、より肥沃な南の地に執念ともいえる執着を示し続けてきた。結果として、フェアファックスの辺境領は、常にその矛先を受け止める盾となってきたのだ。辺境の巡回は、極めて重要な任務だった。少しの油断が侵入経路の見落としにつながる。警備が徹底されていることを敵に知らしめ、同時に、帝国内にも辺境の重要性を認識させる必要がある。また、セオドア自身が駐屯地に足を運び、警備状況を直接確認することは、辺境軍全体の緊張感を保つ上で欠かせなかった。国境にある四つの駐屯地を巡回しながら、要所を確認して回る。駐屯地のある要塞から次の要塞までは、軍馬を駆っても三日はかかる距離だ。戦時中に破壊された国境の城壁は荒れ果てていたが、この三年でようやく修復を終え、敵の抜け道をすべて塞いだところだった。本来であれば、雪が降る前に巡回を終えるべきなのだが、今年は結婚の

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    翌日、調理場から魚の干物を一つもらい、メイアとコンラートとともに噴水へ向かった。子猫が潜んでいる石組みの隙間の前に、干物をそっと置く。そしてその石組みの上で、毛布を手にローティシアが静かに待ち構えた。「奥さまにそんなことをさせるわけにはいきません! 私が――」メイアはそう言ったが、「大丈夫よ。昔やったことがあるの」と穏やかに説き伏せて、ローティシアがその役を買って出た。実際、かつて教会の祭壇の裏で、似たようなことをしたことがあったのだ。子猫が警戒しながら干物に近づくのを、息をひそめて待つ。十分に気を引きつけた頃合いを見計らい、退路をふさぐように毛布をふわりとかぶせ、そのまま子猫を抱き上げる。毛布の中で、怯えた子猫が暴れていた。「今、毛布を開けたら逃げてしまうわ。このまま部屋へ連れて行きましょう」毛布越しにそっと声をかけながら、足早に部屋へ向かう。「メイア、お願いがあるの。桶にお湯を入れて持ってきてもらえるかしら? それと、そこに少し強めのお酒も。たぶんこの子、たくさんダニやノミがついていると思う。お風呂で洗って落としてあげたいの。暴れるだろうけれど、疲れてすぐに観念すると思うわ」部屋でお湯が届くのを待つあいだ、毛布をそっと開いて中を覗く。子猫は耳を伏せ、「シャーッ」と怒ったような声を上げたが、思ったほど暴れなかった。きっと、かなり衰弱していたのだろう。コンラートの言う通り、あと数日、もし夜に雪でも降っていたら――命はなかったかもしれない。子猫に引っ掻かれながら、優しくお湯に浸けて体を洗う。洗い終える頃には、観念したのかすっかり大人しくなっていた。タオルでしっかりと毛を乾かしてから、ミルクの入った皿をそっと目の前に置く。警戒しながら鼻先で皿の匂いを確かめ、やがてゆっくりと舌を伸ばし、ぴちゃぴちゃと飲みはじめた。きれいに洗われ、毛並みが乾いた子猫は、真っ白でふわふわの毛玉のようだった。「奥さま……お手が、傷だらけです」メイアが困ったような表情で言う。よく見れば、ローティシアの手の甲や手首の内側には、無数の引っ掻き傷が刻まれていた。自分のその姿を見て、思わず笑いがこみ上げてきた。「ふふふふふ……」突然笑い出したローティシアを、メイアとコンラートが驚いたように見つめる。ローティシアはずっと、不安だった。貴族らしからぬふるまいを見られて、使用人

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    翌朝、目が覚めた時には、すでにセオドアは出立をした後だった。起こしてくれれば良かったのに、と寂しく感じる。それから、見送りができなかった不甲斐ない自分に、がっかりした。セオドアが城を出発してしばらくは、図書室から本を持ち出して部屋で読んだり、刺繍をしたりして過ごした。しかし、何をしていても落ち着かない。辺境へ来るまでの毎日は、双子たちの世話でとても忙しかった。今思い返せば、何もやることなく日々が過ぎるよりはその方がずっと良かった。こんなに時間があっても現実が妄想に追いつかず、何も浮かばない。無理に思い浮かべようとすると、セオドアとの夜の色々が浮かんで、体が爆発しそうに熱くなってしまう。妄想に浸ることすらできないとは。はぁ、とため息をついた。「奥さま、お疲れですか?」向かい合わせで刺繍をしていたメイアが、ローティシアの小さなため息を聞いて、声をかけてくる。「いいえ、大丈夫」——だって、疲れるほど何もやってないもの取り繕うような笑顔を作り、メイアの方を見る。「奥さま、少し中庭を散策されますか? まだ、雪も降り始めておりませんし、マントを羽織ってお散歩するのはいかがでしょう」そうだ、体を動かすのがいいかもしれない。メイアの提案に従ってマントを羽織り中庭へ向かう。もうすぐ冬になろうという中庭には花も咲いておらず、剪定が終わり、冬支度の為の藁が植え込みに敷きこまれていた。中庭を抜け、城郭に沿って歩き始めた時、調理場の勝手口がバタンと開き、赤毛の男の子が飛び出してきた。手にソーセージを掴んでいる。勢いよく飛び出して来たので、そのままスカートの中にボスンと頭を突っ込んだ。ローティシアは、その勢いに押されて盛大に尻もちをつく。「奥さま!大丈夫ですか」メイアが慌てて駆け寄る。抱きかかえるような形で尻もちをついたので、男の子を確保した形になった。「コンラート!また、食堂から食べ物を持ち出して! 奥さまにお怪我をさせたらどうするの!」メイアが男の子を叱りながら引っ張り上げ、ローティシアの手を取って立つのを助けてくれる。「奥さま‥‥閣下と結婚した人ってこの人?」男の子がメイアに聞いている。「奥さま、申し訳ありません。この子はコンラート=ベルガモットと言いまして、辺境軍の副将をしているエンリオ=ベルガモット卿の息子です。ベルガモット卿が旦那さま

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  • 夢見る白銀の乙女は傲慢な将軍に娶られる   第21話 夫婦のやり直し

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